あの頃は純粋だった
恋愛といえるかどうか分かりませんが、僕には淡い恋心を覚えた時期がけっこうありまして、それは小学校のときが多かった。本当はもう幼稚園に通っていたときには好きな子がいましたが、この年頃の子供は、好きな子にほど意地悪をしたくなるものです。僕もかなり苛めた覚えがあります。
そして、小学校に入れば、クラス替えをするたびに好きな子ができましたね。四年生のときのことです。やっぱり僕は心惹かれる女の子がいたのです。もう、一日中、その子のことを見つめていました。とにかく気になって仕方なかったのですね。しかし、こういう思いというものは、けっして上手くことが運ぶことがないのが世の常で、僕に興味を持ってくれた女の子は、まったく別の子でした。
その子は僕と同じ班の女子で、一度班のメンバーで遊んだことがありまして、それから頻繁に話をするようになりました。あるとき彼女はいきなり僕に小さな包みを手渡したのです。「コレ、家に帰ったら開けてみて」と。何が何だか分かりませんでしたが、とりあえず僕は家に帰ってその包みを開いてみた。その中には女の子が好きそうな可愛いキャラクターのシールですとか、ワッペンですとか、そんな小物が入っていたのですね。それから手紙です。読んでみると、彼女の家庭のこととか学校での出来事などが記されていました。
次の日の朝、教室に入るとその子が僕に近づいてきて、「手紙、読んでくれた?」と訊いてきたのです。「うん……」「私にも手紙書いてね」そう言われたのです。これには困りました。どうしてって、僕は今までに手紙というものを書いたことがない。ましてや女の子になんて。仕方ないので、近所にできたばかりのキティーショップで、女の子が好きそうな小物をいくつか買いまして、それを雑に包んで渡してあげた。やっぱり手紙は書けなかったですね。
すると彼女、プレゼントは大いに喜んでくれたのですが、手紙を書かなかったことが不満らしく、次に彼女から貰った手紙には、プレゼントはもういいから、なんでもいいので手紙がほしいと書いてありました。なんでこんなことをしなきゃいけないのか分からないまま、僕はほんの二三行の文章を書いて、それを彼女に渡していました。
こうして何ヵ月か、僕たちの手紙のやりとりがあったのですが、さすがに僕も限界でした。もう何も書きたくなかったのです。それで彼女から一歩的に手紙を貰うだけで、僕からはいっさい書かなかった。それでも何回か彼女から手紙を貰いましたが、いつの間にかその手紙もこなくなりました。
新学期が始まり、彼女とは班も変わってしまい、話すこともなくなりました。それから二十年後、たまたま地元で彼女と出会い、ビックリしました。彼女はまさに女優のように美しい女になっていたのです。話してみると、まだ結婚もしていないと言います。僕にはすでに女房子供がいました。なんだか惜しい気がしましたね。